別冊

雪頽(北越雪譜)2/22018/02/04 19:52

北越雪譜初編 巻之中
   越後湯沢 鈴木 牧之 編撰
   江  戸 京山人百樹 刪定

 ○雪頽(なだれ)2/2

 或人問曰(とふてしはく)、雪の形六出(むつかど)なるは前に弁ありて詳(つまびらか)也。雪頽は雪の塊(かたまり)ならん、砕(くだけ)たる形雪の六出なる本形をうしなひて方形(かどだつ)はいかん、答(こたへ)て曰、地気天に変格して雪となるゆゑ、天の円(まるき)と地の方(かく)なるを併合(あはせ)て六出をなす。六出(りくしゆつ)は円形(まろきかたち)の裏也。雪天陽を離(はなれ)て降下(ふりくだ)り、地に帰(かへれ)ば天陽(やう)の円(まろ)き象(かたどり)うせて地陰(いん)の方(かく)なる本形に象(かたど)る、ゆゑに雪頽は千も万も圭角(かどだつ)也。このなだれ解(とけ)るはじめは角々(かど/\)円(まろ)くなる、これ陽火(やうくわ)の日にてらさるゝゆゑ天の円(まろき)による也。陰中に陽を包み陽中に陰を抱(いだく)は天地定理中(ぢやうりちゆう)の定格(ぢやうかく)也。老子経第四十二章に曰(いはく)、万物負レ陰而抱レ陽(ばんぶついんをおびてやうをいだく)冲気以為レ和(ちゆうきををもつてくわをなす)といへり。此理を以てする時は、お内儀さまいつもお内儀さまでは陰中に陽を抱(いだか)ずして天理に叶(かなは)ず、をり/\は夫に代りて理屈をいはざれば家内治(おさまら)ず、さればとて理屈に過(すぎ)牝鳥(めんどり)旦(とき)をつくればこれも又家内の陰陽前後して天理に違(たが)ふゆゑ家の亡(ほろぶ)るもと也。万物の天理誣(しふ)べからざる事かくのごとしといひければ、問客(とひしひと)唯々(いゝ)として去りぬ。雪頽悉(こと/”\)く方形(かどだつ)のみにもあらざれども十にして七八は方形をうしなはず。故(ゆゑ)に此説を下(くだ)せり。雪頽の図(づ)多く方形に従ふものは、其七八をとりて模様(もやう)を為すのみ。
「校註 北越雪譜」野島出版より(P.49~50)

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 ○雪頽(なだれ)2/2

|| 或人問曰(とふてしはく)、雪の形六出(むつかど)なるは前に弁ありて詳(つまびらか)也。雪頽は雪の塊(かたまり)ならん、砕(くだけ)たる形雪の六出なる本形をうしなひて方形(かどだつ)はいかん、答(こたへ)て曰、地気天に変格して雪となるゆゑ、天の円(まるき)と地の方(かく)なるを併合(あはせ)て六出をなす。

■ ある人との問答。

〈或人〉「雪の形が六つ角だということは、前の話で判りましたが、雪崩は雪の塊ですよね。
砕けた形が六角にならずに四角になってしまうのはどういうことでしょうか」。

〈京山〉「それはじゃ、地気が天に昇って変格して雪になるので、天の円(まる)と地の方形が和合したから六角なのじゃ。『○雪の形』の条(くだり)に書いたのがそのことじゃ。〔愚按るに円は天の正象、方は地の実位也〕ということとな」。

||六出(りくしゆつ)は円形(まろきかたち)の裏也。

■六角に突出するのは、円の形の裏なのです。

※京山先生のはなしは続く・・・※

||雪天陽を離(はなれ)て降下(ふりくだ)り、地に帰(かへれ)ば天陽(やう)の円(まろ)き象(かたどり)うせて地陰(いん)の方(かく)なる本形に象(かたど)る、ゆゑに雪頽は千も万も圭角(かどだつ)也。

■雪が天の領域から離れて降下して、地に戻れば天(陽)の正象の形(円)が失せて、地(陰)の実位の形(方)に変わるのです。
だから、雪崩は至るところが角立つのです。

※京山先生、よく判りませーん(笑)。

||このなだれ解(とけ)るはじめは角々(かど/\)円(まろ)くなる、これ陽火(やうくわ)の日にてらさるゝゆゑ天の円(まろき)による也。

■この雪崩が溶け始めると、角かどは再び丸くなるのです。
これは、陽の火である日光に照らされるから、丸くなるという理屈なのです。

||陰中に陽を包み陽中に陰を抱(いだく)は天地定理中(ぢやうりちゆう)の定格(ぢやうかく)也。

■陰中に陽在り、陽中に陰在り、これは天と地の定理ともいうべき本来の仕組みなのです。
※この事々も、『○雪の形』の条に書いた気がする、、、(京山の独言、、、こら!)

||老子経第四十二章に曰(いはく)、万物負レ陰而抱レ陽(ばんぶついんをおびてやうをいだく)冲気以為レ和(ちゆうきををもつてくわをなす)といへり。

■〈京山〉「えーと、老子の「道徳経」は第四十二章にこう書かれている」。
万物負陰而抱陽〕バンブツ フーイン ジ ホーヨー
冲気以為和〕 チューキ イーイー ワー(※嘘ですから、どう読むのかわかりません(笑))

 万物は陰を負い、しかして、陽を抱くのです
 それがチュウする事によって、和というものが顕れる、とな。
 嗚呼、それが虚無ぢゃ。

 ※そんな事は書いてませんが、こういう↓ことですかね(^^;

||此理を以てする時は、お内儀さまいつもお内儀さまでは陰中に陽を抱(いだか)ずして天理に叶(かなは)ず、をり/\は夫に代りて理屈をいはざれば家内治(おさまら)ず、さればとて理屈に過(すぎ)牝鳥(めんどり)旦(とき)をつくればこれも又家内の陰陽前後して天理に違(たが)ふゆゑ家の亡(ほろぶ)るもと也。

■〈京山〉「この理(ことわり)を敷衍するとじゃな、

おかみさんはいつもお内儀様のままでは、陰中に陽を抱く事が無いので天理に叶うておらぬのじゃ。時々は、、、えーと、折にふれてはだな、夫に代わって小言のひとつも言わないと、家内の安寧は保てないのだな。

だからといって、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃと喋りすぎると、これはだな、〔めんどり(雌鳥)うたえば家亡ぶ〕ということばがあるのじゃ。これも過ぎると家内の陰陽が逆になるので、天の理に叶わないのだな」。

※〔人の体男は陽なるゆゑ九出し女は十出す〕と、女が陰、男が陽と、やはり『○雪の形』でしっかりと前振りして書いているのです(笑)。

||万物の天理誣(しふ)べからざる事かくのごとしといひければ、問客(とひしひと)唯々(いゝ)として去りぬ。

■〈京山〉「万物は天の理を違えてはならぬ、というのはこういうことなのじゃ」

と、講釈をしたら、その御仁は「へいへい、ありがたいお説でございますだ」と逃げて行ったわい。
アハハ。かんらかんら。

※悪乗り、いやいや、京山がそのように書いていると思えて仕方が無い(笑)。

||雪頽悉(こと/”\)く方形(かどだつ)のみにもあらざれども十にして七八は方形をうしなはず。故(ゆゑ)に此説を下(くだ)せり。

■雪崩は全ての形が角立つわけでは無いのですが、七八割が方形を保っている。
それなので、このように説明してみました。

||雪頽の図(づ)多く方形に従ふものは、其七八をとりて模様(もやう)を為すのみ。

■雪崩の絵を矩形の雪を多用して描いたのは、その為なのです。
(※これは、京水(絵師:京山の息子)の絵図の説明(言い訳)なのかも。
実際にはこんな物ではないという・・・)。



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