別冊

地気雪と成る弁(北越雪譜)2018/01/03 01:01

北越雪譜初編 巻之上
   越後湯沢 鈴木  牧之 編撰
   江  戸 京山人 百樹 刪定

  ○地気(ちき)雪と成る弁

 凡そ天より形を為(な)して下す物・雨・雪・霰(あられ)・霙(みぞれ)・雹(ひょう)なり。露(つゆ)は【地気】の粒珠(りふしゅ)する所、霜(しも)は地気の凝結(ぎょうけつ)する所、冷気の強弱(つよきよわき)によりて其形(そのかたち)を異(こと)にするのみ。地気天に上騰(のぼり)、形を為(なし)て雨・雪・霰・霙・雹となれども、温気(あたゝかなるき)をうくれば水となる。水は地の全体(ぜんたい)なれば元の地に帰(かへる)なり。地中深ければかならず温気あり。地温(あたたか)なるを得て気を吐(はき)、天に向(むかひ)て上騰(のぼる)事人の気息(いき)のごとく、昼夜片時も絶(たゆ)る事なし。天も又気を吐(はき)て地に下(くだ)す、是(これ)天地の呼吸(こきふ)なり。人の呼(でるいき)と吸(ひくいき)とのごとし。天地呼吸して万物を生育(そだつる)也。天地の呼吸常を失(うしな)ふ時は暑寒(あつささむさ)時に応ぜず、大風大雨其余(そのよ)さま/”\の天変(へん)あるは天地の病(やめ)る也。天に九ツの段(だん)あり、これを【九天(きうてん)】といふ。九段(くだん)の内最地(もっともち)に近き所を【太陰天(たいいんてん)】といふ。地を去(さ)る事高さ四十八万二千五百里といふ。太陰天と地との間(あひだ)に三ツの際(へだて)あり、天に近(ちかき)を【熱際(ねつさい)】といひ、中を【冷際(れいさい)】といひ、地に近(ちかき)を【温際(をんさい)】といふ。
地気は冷際を限りとして熱際に至らず、【冷温】の二段は地をさる事甚だ遠からず。【富士山】は温際を越(こえ)て冷際にちかきゆゑ、絶頂(ぜつてう)は温気通(あたゝかなるきつう)ぜざるゆゑ草木(くさき)を生ぜず、夏も寒く雷鳴暴雨(かみなりゆふだち)を温際の下に見る。雷と夕立はをんさいのからくり也。雲は地中の温気より生ずる物ゆゑに其起る形は湯気のごとし。水を沸(わかし)て湯気の起(たつ)と同じ事なり。
雲温(くもあたゝか)なる気を以て天に升(のぼ)り、かの冷際にいたれば温(あたたか)なる気消(ききえ)て雨となる。湯気の冷(ひえ)て露(つゆ)となるが如し。冷際にいたらざれば雲散じて雨をなさず。さて雨露(あめつゆ)の粒珠(つぶだつ)は天地の気中在るを以て也。草木の実の円(まろき)をうしなはざるも気中に生ずるゆゑ也。雲冷際にいたりて雨とならんとする時、天寒(てんかん)甚しき時は雨氷(あめこほり)の粒となりて降り下る。天寒の強(つよき)と弱(よわき)とによりて粒珠(つぶ)の大小を為す、是を霰(あられ)とし霙(みぞれ)とする。雹(ひよう)は夏ありその弁(べん)こゝにりやくす。地の寒強(かんつよ)き時は地気形をなさずして天に升(のぼ)る、微温湯気(ぬるきゆげ)のごとし。天の曇(くもる)は是也。地気上騰(のぼる)こと多ければ天灰色(てんねずみいろ)をなして雪ならんとする。曇(くもり)たる雲(くも)冷際に至り先(まず)雨となる。此時冷際の寒気雨を氷(こほら)すべき力(ちから)たらざるゆゑ花粉(くわふん)を為して下す。是雪也。地寒(ちかん)のよわきとつよきとによりて氷の厚(あつき)と薄(うすき)との如し。天に温冷熱(をんれいねつ)の三際(さい)あるは、人の肌(はだへ)は温(あたたか)に肉(にく)は冷(ひやゝ)か臓腑(ざうふ)は熱(ねつ)すると同じ道理也。
気中万物の生育(せいいく)悉(こと/”\)く天地の気格(きかく)に随(したが)ふゆゑ也。是(これ)余(よ)が発明にあらず諸書(ししょ)に散見したる古人(こじん)の説也。
(P.7~8)

 ・・・

||  ○地気(ちき)雪と成る弁

|| 凡そ天より形を為(な)して下す物・雨・雪・霰(あられ)・霙(みぞれ)・雹(ひょう)なり。

■空から目に見える形状で降ってくるものはといえば、雨・雪・霰(あられ)・霙(みぞれ)・雹(ひょう)なのです。

と『北越雪譜』初編(天保七(1836)年)には書いてある。

||露(つゆ)は【地気】の粒珠(りふしゅ)する所、霜(しも)は地気の凝結(ぎょうけつ)する所、冷気の強弱(つよきよわき)によりて其形(そのかたち)を異(こと)にするのみ。

■露(つゆ)は地面の気が粒立つ場所、霜(しも)は地表の面の気が固まる場所に発生するが、これは元々同じもので冷気の強弱によってその形を変えたものなのです。

||地気天に上騰(のぼり)、形を為(なし)て雨・雪・霰・霙・雹となれども、温気(あたゝかなるき)をうくれば水となる。

■地表の空気は上空に上って、その形を変え、降ってくるもの(雨・雪・霰・霙・雹)のそれぞれの形になりますが、温かい気にあたれば水になるのです。

||水は地の全体(ぜんたい)なれば元の地に帰(かへる)なり。地中深ければかならず温気あり。地温(あたたか)なるを得て気を吐(はき)、天に向(むかひ)て上騰(のぼる)事人の気息(いき)のごとく、昼夜片時も絶(たゆ)る事なし。

■水は地表全体の大元なので、必ず地表に戻るのです。
地中の深い場所では、必ず熱があります。
その熱で、気化して空中に上る現象は、人(動物)が息する事と同じで、その呼吸は止まることなく続くのです。

||天も又気を吐(はき)て地に下(くだ)す、是(これ)天地の呼吸(こきふ)なり。人の呼(でるいき)と吸(ひくいき)とのごとし。天地呼吸して万物を生育(そだつる)也。

■空もまた気を吐いて、その気は地上に降るのです、これは地球の呼吸なのです。
人の呼吸と同じことなのです。
そして、天が呼して地が吸する、その事象が、森羅万象を育て育んでいるのです。

||天地の呼吸常を失(うしな)ふ時は暑寒(あつささむさ)時に応ぜず、大風大雨其余(そのよ)さま/”\の天変(へん)あるは天地の病(やめ)る也。

■天と地との間で、そのやり取りが定常状態からずれることがあります。
その時には、寒暖が時節の通りにならなかったり、大風・大雨そのほかの天変地異災害が起きるのです。
これは、天と地の呼吸がうまくいっていない、つまりは地球が病んでいる状態なのです。

||天に九ツの段(だん)あり、これを【九天(きうてん)】といふ。九段(くだん)の内最地(もっともち)に近き所を【太陰天(たいいんてん)】といふ。
地を去(さ)る事高さ四十八万二千五百里といふ。

■宇宙には、9つのレベルがあります、これを九天(きゅうてん)といいます。
その9つの状態のなかで、最も地上(地球上)に近い領域を太陰天(たいいんてん)といいます。
この領域空間は、地表から482、500里の高さまでといわれます。
太陰天、これは、大体月の運行面までの距離なのです。

||太陰天と地との間(あひだ)に三ツの際(へだて)あり、天に近(ちかき)を【熱際(ねつさい)】といひ、中を【冷際(れいさい)】といひ、地に近(ちかき)を【温際(をんさい)】といふ。

■太陰天から地表までの空間は、3つに分けられます。
天に近い方から、熱際、冷際、温際と分けられるのです。
地表に近い空間が、温際(おんさい)です。

||地気は冷際を限りとして熱際に至らず、【冷温】の二段は地をさる事甚だ遠からず。【富士山】は温際を越(こえ)て冷際にちかきゆゑ、絶頂(ぜつてう)は温気通(あたゝかなるきつう)ぜざるゆゑ草木(くさき)を生ぜず、夏も寒く雷鳴暴雨(かみなりゆふだち)を温際の下に見る。雷と夕立はをんさいのからくり也。

■地表の空気は、冷際までは届きますが、その上の宇宙空間にまでは放出されません。
冷と温のふたつのレベルは、地表からはさほど遠くはないのです。
富士山の例ですと、温際を越えて冷際に近い場所となりますが、山頂は温気が通じないので植物は生えません、また夏も寒いので、
雷や暴しい雨は下方の温際で発生します。
雷や夕立は温際で発生する現象なのです。

||雲は地中の温気より生ずる物ゆゑに其起る形は湯気のごとし。
水を沸(わかし)て湯気の起(たつ)と同じ事なり。

■雲は地表の大気の温まりで発生するので、その形象は湯気と同じ事です。
水を沸かして、湯気が立つのと同じ事象なのです。

||雲温(くもあたゝか)なる気を以て天に升(のぼ)り、かの冷際にいたれば温(あたたか)なる気消(ききえ)て雨となる。湯気の冷(ひえ)て露(つゆ)となるが如し。冷際にいたらざれば雲散じて雨をなさず。

■雲は暖かい大気で中空に上昇して、冷際域にまで届くと、温気が冷やされるので雨になります。
冷えた大気で露が発生するのと同じ事です。
雲は冷際にまで届かないと、散ってしまい雨にならないのです。

||さて雨露(あめつゆ)の粒珠(つぶだつ)は天地の気中在るを以て也。草木の実の円(まろき)をうしなはざるも気中に生ずるゆゑ也。

■雨露が粒になるのは、天と地の気があるからに他ならないのです。
それは、草木の果実が丸い形になるのも、同じ道理なのです。

||雲冷際にいたりて雨とならんとする時、天寒(てんかん)甚しき時は雨氷(あめこほり)の粒となりて降り下る。天寒の強(つよき)と弱(よわき)とによりて粒珠(つぶ)の大小を為す、是を霰(あられ)とし霙(みぞれ)とする。雹(ひよう)は夏ありその弁(べん)こゝにりやくす。

■雲が冷際にぶつかって雨となる時に、冷気がはなはだしい時には雨は氷の粒になって降り落ちます。
ぶつかる場所の冷気の強弱によって、それらの粒立ちは大小の差がでます。
これが、霰(あられ)や霙(みぞれ)の違いとなります。
雹(ひょう)は夏に発生する事象ですが、ここではその説明は一旦省略しておきます。

||地の寒強(かんつよ)き時は地気形をなさずして天に升(のぼ)る、微温湯気(ぬるきゆげ)のごとし。天の曇(くもる)は是也。

■地表の寒さが強いときには、地表の空気は形を作らずに、上昇します。
ぬるま湯の湯気のようなものです。これが天空が曇る理由です。

||地気上騰(のぼる)こと多ければ天灰色(てんねずみいろ)をなして雪ならんとする。曇(くもり)たる雲(くも)冷際に至り先(まず)雨となる。此時冷際の寒気雨を氷(こほら)すべき力(ちから)たらざるゆゑ花粉(くわふん)を為して下す。是雪也。

■地表の大気が大量に上昇すると、どんよりと曇り空となって、雪が降りそうになります。
この曇った雲は、冷際で冷やされると、先ずは雨になります。
この時に、上空の冷気がその雨を凍らすところまでいかないと、花粉のようなって降下します。
これが、雪なのです。

||地寒(ちかん)のよわきとつよきとによりて氷の厚(あつき)と薄(うすき)との如し。

■地上でも、寒さの強さによって、氷が薄く張ったり厚くなるのと同じ事です。

||天に温冷熱(をんれいねつ)の三際(さい)あるは、人の肌(はだへ)は温(あたたか)に肉(にく)は冷(ひやゝ)か臓腑(ざうふ)は熱(ねつ)すると同じ道理也。気中万物の生育(せいいく)悉(こと/”\)く天地の気格(きかく)に随(したが)ふゆゑ也。

■天空に温冷熱の3状態があるのは、人の皮膚は温で、肉は冷、内臓は熱を持っているのと同じ理屈なのです。
地球上の万物はことごとく、天地の気が揺りかごとなって育てられているということなのです。

||是(これ)余(よ)が発明にあらず諸書(ししょ)に散見したる古人(こじん)の説也。

■これらの説は、わたしが思いついた発明でもなんでもない。
色々な書物にも書かれている、古人の説なのです。

(P.7~8)

・・(リハビリ中也)さて、こんなんで、続けられましょうぞ?(笑)・・
(2018/01/02)ルビは適宜挿入した。

コメント

_ 恵比塵 ― 2018/01/07 22:11

【訂正】
×||是(これ)余(よ)が発明にあらず諸書(ししょ)に散見したる古人(こじん)の説也。
 ↓↓
○||是(これ)余(よ)が発明にあらず諸書(しよしよ)に散見したる古人(こじん)の説也。

この程度より他にも、転記ミスの誤字だらけの気がする、、、
見直しても気づかない、ご指摘ご鞭撻のほどm(_ _;)m

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