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○雪中の虫(むし)
|| 唐土(もろこし)蜀(しよく)の峨眉山(がびさん)には夏も積雪(つもりたるゆき)あり。
其雪の中に雪蛆(せつじよ)といふ虫あること山海経(さんがいきやう)に見えたり。
-山海経 唐土(もろこし)の書-
■中国は四川省の西南にある峨眉山(がびさん)は、夏も雪を冠する有名な山です。
『山海経(せんがいきょう)』という地誌には、その山の雪中に【雪蛆(せつじょ)】という虫がいるということが書かれています。
||此説空(むなし)からず、越後の雪中にも雪蛆(せつじよ)あり、此虫早春の頃より雪中に生じ雪消終(きえをはれ)ば虫も消終(きえをは)る、始終の死生を雪と同(おなじ)うす。
■実は、越後の国の雪中にもいるのです。
この虫は春先の頃に雪の中から生れて、雪が消えるとこの虫もいなくなってしまうのです。
虫の一生が雪の一生と同じ季節なのです。
||字書を按(あんずる)に蛆(じよ)は腐中(ふちゆう)の蠅(はへ)とあれば所謂(いはゆる)蛆蠅(うじばへ)也。
蛆(たつ)は?(たい)の類(るゐ)、人を螫(さす)とあれば蜂の類也。
雪中の虫は蛆(じよ)の字に従ふべし、しかれば雪蛆は雪中の蛆蠅也。
■辞書を引いて調べてみると、
【蛆(じょ)〔腐り物の中の蝿〕】とある、つまりいわゆる蛆蠅(うじばえ)のことになる。
蛆(たつ)と読んで引いてみると、
【蛆(たつ)〔●(たい)の類、人を射す〕】とある。これだと、つまりは蜂のことになる。
とすると、この雪中の虫は“じょ(蛆)”と読ませるのが妥当でしょう。
雪中の虫、ユキムシ(雪虫、雪蛆)は、雪中の蛆蠅なんですね。
※●(たい):虫偏に“旦”の字。
||木火土金水(もくくわどごんすゐ)の五行中皆虫を生ず、木の虫、土の虫、水の虫は常に見る所めづらしからず。
■万物流転の物質五行、全ての【木火土金水】の中からは虫が生じます。
【木の虫】【土の虫】【水の虫】は日常でも見るもので珍しくはありません。
||蠅(はへ)は灰(はひ)より生ず、灰は火の燼末(もえたこな)也、しかれば蠅は火の虫也。
蠅を殺して形あるもの灰中(はひのなか)におけば蘇(よみがへる)也。
■【蝿(はえ)】は灰(はい)から生ずるのです。灰は火の結末状態なのです。
それゆえ蝿は【火の虫】なのです。蝿を殺してそのまま灰の中におくと、蝿は蘇生するのです。
(※駄洒落ではないらしい)
||又蝨(しらみ)は人の熱より生ず、熱は火也、火より生たる虫ゆゑに蠅も蝨も共に暖(あたゝか)なるをこのむ。
■では【虱(しらみ)】はというと、虱は人の熱から生じるのです。
熱はつまり火です。火から生じた虫なので、蝿も虱を暖かい環境を好むのです。
||金中(かねのなか)の虫は肉眼(ひとのめ)におよばざる冥塵(ほこり)のごとき虫ゆゑに人これをしらず。
およそ銅鉄の腐(くさる)はじめは虫を生ず、虫の生じたる所色を変ず。
しば/\これを拭(ぬぐへ)ば虫をころすゆゑ其所(そのところ)腐(くさら)ず。
錆(さびる)は腐(くさる)の始(はじめ)、錆の中かならず虫あり。
肉眼(にくがん)におよばざるゆゑ人しらざる也。
■【金の虫】はこの様に説明が出来る。
金の中の虫は肉眼では見えないほどの微塵のような虫なので人はその事を知りません。
胴や徹は腐り始めに虫を出します、その虫の生じた所は色が変わるのです。
胴や徹は、たびたび拭くと虫が死ぬのでその個所が腐りません。
錆びるというのは腐り始めの現象なのです、だから錆の中には必ず虫がいるのです。
小さすぎて目に見えないので人が気付かないだけなのです。
||金中猶虫あり、雪中虫無(なから)んや。
しかれども常をなさゞれば、奇とし妙として唐土(もろこし)の書にも記(しる)せり。
■金中なをもちて虫生ず、いはんや雪中をや。とな、かはは。
※親鸞様の「善人なをもちて往生をとぐ、いはんや悪人をや」のやうな御説でごじゃりまする(笑)。
||我越後の雪蛆はちひさき事蚊の如し。
此虫は二種あり、一ツは翼(はね)ありて飛行(とびあるき)、一ツははねあれども蔵(おさめ)て?行(はひあるく)。
共に足六ツあり、色は蠅に似て淡(うす)く 一は黒し 其の居(を)る所は市中原野蚊に同じ。
■越後の国のユキムシは蚊ほどの小ささです。
この虫には二種類あって、ひとつは羽根があって飛びます。
もうひとつは羽根はあるが畳んだままで這い歩きます。
どちらも足は六本、色は蝿に似て薄灰色で、町中でも野原でも蚊と同じような場所に棲息しています。
〔追記:色は薄いものと、黒いものがいます〕。
||しかれども人を螫(さす)むしにはあらず、験微鏡(むしめがね)にて視たる所をこゝに図(づ)して物産家(ぶつさんか)の説を待つ。
■しかし、人を射す虫ではありません。
※蜂の種類ではない事を強調しているらしい。
虫眼鏡で観察した図をここにあげて、研究者の判断を待ちたいところです。
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