別冊 恵比塵

130623_それはできんな2013/07/02 23:13



130623_それはできんな

 NHK大河ドラマ、【八重の桜】の斎藤一と土方歳三の決別場面。


 以下の文章は、テレビとは関係なく、中村彰彦さんの小説『明治無頼伝』からの抜書き。

 傷癒えて新選組隊長に復帰していた土方歳三と、山口次郎こと斎藤一の間に決定的な意見の相違が起こったのはこの時であった。
 「母成峠はすでに破れ、越後口からも西軍が近づきつつあるようだから、もはや会津藩は滅びの道をたどるしかあるめえ。
実は今、旧幕海軍副総裁の榎本和泉守(えのもといずみのかみ)さまが蝦夷地(えぞち)へ走ってかの地に旧幕臣たちの国を作ろうと、旧幕府海軍をひきいて仙台藩領の松島湾にむかっているのだ。
おれはこの際、この榎本艦隊に合流してさらに戦おうと思うがどうだ
 山間に敗走しつつ兵をまとめた時、土方は鶴ヶ城へもどることはもはや考えていない、という口調でいった。
 「それはできんな
 開口一番、これを駁(ばく)したのが斎藤一であった。
ふだん無駄口を叩(たた)かぬ気性のかれは、鋳鉄のぶ厚い蜂金の下から二重瞼のギョロ目を光らせて言い募った。
 「新選組は文久三年以来六年間、会津中将松平肥後守さまのお預かりとしていただいたからこそ幕府にその名を知られ、ついには全員が幕臣に採り立てられるという栄誉に浴したのではないか。
その会津藩に危急存亡の秋(とき)が迫った今、会津藩を見棄てることはおれにはできぬ。
おれは会津藩に殉じる覚悟だ
 こうして土方と訣別(けつべつ)した斎藤一は、池田七三郎、粂部正親(くめべまさちか)らかれに同調した隊士二十余名とともに若松へ引き返した。
(《明治無頼伝 第一章 脱獄》P.41~42)
『明治無頼伝』中村彰彦・角川文庫


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