別冊 恵比塵

雪道(北越雪譜)2018/01/11 23:42

北越雪譜初編 巻之上
   越後湯沢 鈴木  牧之 編撰
   江  戸 京山人 百樹 刪定

 ○雪道(みち)

 冬の雪は脆(やはらか)なるゆゑ人の踏固(ふみかため)たる跡をゆくはやすけれど、往来(ゆきゝ)の旅人一宿(しゆく)の夜大雪降ば、ふみかためたる一条(すじ)の雪道雪に埋(うづま)り途をうしなふゆゑ、郊原(のはら)にいたりては方位(ほうかく)をわかちがたし。此時は里人(さとひと)幾十人を傭(やと)ひ、橇(かんじき)・縋(すがり)にて道を踏開せ、跡に随(したがつ)て行(ゆく)也。此費(ものいり)幾緡(いくさし)の銭を費すゆゑ、貧(とぼ)しき旅人は人の道をひらかすを待(まち)て空(むなし)く時を移(うつす)もあり。健足(けんそく)の飛脚といへども雪道を行(ゆく)は一日二三里に過(すぎ)ず。橇(かんじき)にて足自在ならず。雪膝を越すゆえ也。これ冬の雪中一ツの艱難也。春は雪凍(こほり)て鉄石(てつせき)のごとくなれば、雪車(そり) 又雪舟(そり)の字をも用ふ を以て重(おもき)を用ふ。里人(りじん)は雪車に物をのせ、おのれものりて雪上を行(ゆく)事舟のごとくす。雪中は牛馬の足立ざるゆゑすべて雪車を用ふ。春の雪中重(おもき)を負(おは)しむる事牛馬(うしうま)に勝る。雪車の制作(せいさく)別に記す。形大小種々あり。大なるを修羅(しゆら)といふ。雪国の便利第一の用具也。しかれども雪凍りたる時にあらざれば用ひがたし。ゆゑに里人雪舟途(そりみち)と唱ふ。
「校註 北越雪譜」野島出版より(P.17~20)

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 ○雪道(みち)

|| 冬の雪は脆(やはらか)なるゆゑ人の踏固(ふみかため)たる跡をゆくはやすけれど、往来(ゆきゝ)の旅人一宿(しゆく)の夜大雪降ば、ふみかためたる一条(すじ)の雪道雪に埋(うづま)り途をうしなふゆゑ、郊原(のはら)にいたりては方位(ほうかく)をわかちがたし。

■ 冬の雪は軟らかいので、雪踏みをした跡を歩くのは、割りと安心して歩けます。
ただ一晩の内に大雪が降ると、昨日に踏み固められた一筋の雪道は降った雪で跡形もなくなります。
翌朝に出かけようとする旅人は、道が無くなっていることに気付きます。
野原にまで歩いていくと、目視物も見えなくなるので方向を失ってしまいます。

||此時は里人(さとひと)幾十人を傭(やと)ひ、橇(かんじき)・縋(すがり)にて道を踏開せ、跡に随(したがつ)て行(ゆく)也。

■そういう時には、村人を十数人も雇って、カンジキやスガリで雪踏みをして道を作ってもらって、その跡について歩いていく事になります。

||此費(ものいり)幾緡(いくさし)の銭を費すゆゑ、貧(とぼ)しき旅人は人の道をひらかすを待(まち)て空(むなし)く時を移(うつす)もあり。

■お礼の出費もかさむ事になります。
懐の乏しい旅人は、誰か他の人が雪踏みで道を作ってくれるのを待っているしか手がなくなります。

||健足(けんそく)の飛脚といへども雪道を行(ゆく)は一日二三里に過(すぎ)ず。
橇(かんじき)にて足自在ならず。雪膝を越すゆえ也。これ冬の雪中一ツの艱難也。

■健脚の飛脚の人でも、雪道を歩いて行くには一日に、10キロメートルほどしか歩けません。
カンジキを履いていても雪で膝を越すほどに埋まるので、足が自由にならないのです、
これも、冬の雪中往来の苦労のひとつです。

||春は雪凍(こほり)て鉄石(てつせき)のごとくなれば、雪車(そり) 又雪舟(そり)の字をも用ふ を以て重(おもき)を用ふ。

■春先になると、雪は凍って表面は鉄や石の様に硬く平らになります。
この時期には、雪橇(ソリ)を使って重い荷物なども運びます。
雪車と書きますが、雪舟とも書きます。

||里人(りじん)は雪車に物をのせ、おのれものりて雪上を行(ゆく)事舟のごとくす。雪中は牛馬の足立ざるゆゑすべて雪車を用ふ。春の雪中重(おもき)を負(おは)しむる事牛馬(うしうま)に勝る。

■村の人は、ソリに荷物を載せて、自分も乗って雪上を舟の様に滑って移動します。
雪の中では牛馬では足が立たないので、ほとんどソリを使います。
春の雪中で重いものを運ぶには、牛馬よりも効率も積載量も大きいのです。

||雪車の制作(せいさく)別に記す。形大小種々あり。大なるを修羅(しゆら)といふ。

■そりの製作については、別に書きます。
形は大小さまざまあって、大きいソリは【修羅(しゅら)】と呼んでいます。

||雪国の便利第一の用具也。しかれども雪凍りたる時にあらざれば用ひがたし。ゆゑに里人雪舟途(そりみち)と唱ふ。

■これは雪国で一番便利な用具です。
しかし、硬雪(かたゆき、雪が凍結して表面が硬くなる)の季節にしか使えないのです。
それで、こういう状態の雪になった時のことを、ゆきそりみち(雪舟途)と言います。



【北越雪譜】雪中歩行用具
【北越雪譜】雪中歩行用具
「校註 北越雪譜」野島出版より(P.5)

||雪中歩行用具
||せつちゆう ほこう の ようぐ

読めそうな名前分。
「わらくつ」「こすき」「すき」「ミの」「むねうけ?」「すケり(すがり)」「かん志(じ)き」
「京水図」

別冊 恵比塵