別冊 恵比塵

沫雪(北越雪譜)2018/01/10 23:30

北越雪譜初編 巻之上
   越後湯沢 鈴木  牧之 編撰
   江  戸 京山人 百樹 刪定

 ○沫雪(あわゆき)

 春の雪は消(きえ)やすきをもつて沫雪(あわゆき)といふ。和漢の春雪消やすきを詩歌の作意とす、是暖国の事也。寒国の雪は冬を沫雪ともいふべし。いかんとなれば、冬の雪はいかほどつもりても凝凍(こほりかたまる)ことなく、脆弱(やはらか)なる事淤泥(どろ)のごとし。故(かるがゆゑ)に冬の雪中は、〔橇(かんじき)〕・〔縋(すがり)〕を穿(はき)て途(みち)を行(ゆく)。里言(りげん)には雪を〔漕(こぐ)〕といふ。水を渉る状(すがた)に似たるゆゑにや。又深田を行(ゆく)すがたあり、初春にいたれば雪悉く凍(こほ)りて、雪道は石を布(しき)たるごとくなれば往来冬よりは易(やす)し。すべらざるために、下駄(げた)の歯にくぎをうちて用ふ。暖国の沫雪とは気運の前後かくのごとし。
「校註 北越雪譜」野島出版より(P.17)

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 ○沫雪(あわゆき)

|| 春の雪は消(きえ)やすきをもつて沫雪(あわゆき)といふ。和漢の春雪消やすきを詩歌の作意とす、是暖国の事也。

■春先に降る消え易い雪を“あわゆき”といって、詩歌の趣向となっていますが、それは暖国の話です。

||寒国の雪は冬を沫雪ともいふべし。いかんとなれば、冬の雪はいかほどつもりても凝凍(こほりかたまる)ことなく、脆弱(やはらか)なる事淤泥(どろ)のごとし。

■雪国の雪は、真冬こそ“あわゆき”と言った方が正しいのです。
何故なら冬の雪はどれだけ積っても凍結する事がなく、軟らかいままでまるで泥のようになっているのです。

||故(かるがゆゑ)に冬の雪中は、〔橇(かんじき)〕・〔縋(すがり)〕を穿(はき)て途(みち)を行(ゆく)。里言(りげん)には雪を〔漕(こぐ)〕といふ。水を渉る状(すがた)に似たるゆゑにや。

■このような雪中の歩行には、〔橇(かんじき)〕や〔縋(すがり)〕を履いて歩きます。
こうした歩き方を、雪を〔漕ぐ〕といいます。まるで水を漕いで渡る様子に似ているからです。

||又深田を行(ゆく)すがたあり、初春にいたれば雪悉く凍(こほ)りて、雪道は石を布(しき)たるごとくなれば往来冬よりは易(やす)し。すべらざるために、下駄(げた)の歯にくぎをうちて用ふ。

■また田んぼなど野原の上も歩けます。
春が近くなると、雪の表面が凍ってまるで石を敷いた平面のようになるので、歩行移動は真冬の沫雪状態とは全く違って歩きやすくなります。
滑らないように、下駄の歯に釘を打って使います。

||暖国の沫雪とは気運の前後かくのごとし。

■この様に、暖国で言われる淡雪とは大違いなのです。



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