雪中の火(北越雪譜)2/3
北越雪譜初編 巻之中
越後湯沢 鈴木 牧之 編撰
江 戸 京山人百樹 刪定
○雪中の火 2/3
越後の魚沼郡五日町といふ駅に近き西の方に低き山あり、山の裾に小溝在(あり)、天明年中二月の頃、そのほとりに童(わらべ)どもあつまりてさま/”\の戯(たはむれ)をなして遊倦(あそびうみ)、木の枝をあつめて火を焚(たき)てあたりをりしに、其所よりすこしはなれて別に火?々(えん/\)と燃(もえ)あがりければ、児曹(こどもら)大におそれ、皆々四方に逃散(にげちり)けり。その中に一人の童(わらべ)家にかへり事の仔細を親に語(かたり)けるに、此親心ある者にてその所にいたり火の形状(かたち)を見るに、いまだ消(きえ)ざる雪中に手を入るべきほどの孔(あな)をなし孔より三四寸の上に火燃(もゆ)る。熟覧(よく/\みて)おもへらく、これ正(まさ)しく妙法寺村の火のるゐなるべしと火口(ひぐち)に石を入れてこれを消し家にかへりて人に語(かたら)ず、雪きえてのち再(ふたゝび)その所にいたりて見るに火のもえたるはかの小溝の岸也。火燧(ひうち)をもて発燭(つけぎ)に火を点じ、試(こゝろみ)に池中に投(なげ)いれしに池中(ちちゆう)火を出せし事庭燎(にはび)のごとし。水上に火燃(もゆ)るは妙法寺村の火よりも奇也として駅中(えきちゆう)の人々来りてこれを視る。そのゝち銭に才(かしこき)人かの池のほとりに混屋(ふろや)をつくり、筧(かけひ)を以て水をとるがごとくして地中の水を引き湯槽(ゆぶね)の竈に燃(もや)し又燈火(ともしび)にも代る。池中の水を湯に??覃(わかし)価(あたひ)を以て浴(よく)せしむ。此湯硫黄の気ありて能(よく)疥(し)癬(の)の類を治(ぢ)し一時流行して人群をなせり。
「校註 北越雪譜」野島出版より(P.45~47)
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○雪中の火 2/3
|| 越後の魚沼郡五日町といふ駅に近き西の方に低き山あり、山の裾に小溝在(あり)、天明年中二月の頃、そのほとりに童(わらべ)どもあつまりてさま/”\の戯(たはむれ)をなして遊倦(あそびうみ)、木の枝をあつめて火を焚(たき)てあたりをりしに、其所よりすこしはなれて別に火?々(えん/\)と燃(もえ)あがりければ、児曹(こどもら)大におそれ、皆々四方に逃散(にげちり)けり。
■ 魚沼郡五日町という宿場に近い西方に低い山があります。その山すそに小さな窪地がある。
天明年中の二月の頃(つまり堅雪の季節)、子供たちが集まって遊んでいました。
遊び飽きて、木の枝を集めて焚き火をしてあたっていました。
すると、少し離れた場所で火炎が立ってぼうぼうと燃え上がったのです。
子供たちは吃驚して、散り散りに逃げていってしまいました。
||その中に一人の童(わらべ)家にかへり事の仔細を親に語(かたり)けるに、此親心ある者にてその所にいたり火の形状(かたち)を見るに、いまだ消(きえ)ざる雪中に手を入るべきほどの孔(あな)をなし孔より三四寸の上に火燃(もゆ)る。
■その中の一人の子どもが家に帰ってからその事を親に話しました。
その親は好奇心のある人で、その場所に出掛けてその火を見ると、まだ雪の消えない雪の原に手が入るほどの穴があいていて、その雪の三四寸上に浮かんで火が燃えているのでした。
||熟覧(よく/\みて)おもへらく、これ正(まさ)しく妙法寺村の火のるゐなるべしと火口(ひぐち)に石を入れてこれを消し家にかへりて人に語(かたら)ず、
■仔細に観察して、これは妙法寺村の火と同じ類だと思いました。
火の出る穴に石を詰めて火を消して家に帰りました。
そのことは人には話しませんでした。
||雪きえてのち再(ふたゝび)その所にいたりて見るに火のもえたるはかの小溝の岸也。火燧(ひうち)をもて発燭(つけぎ)に火を点じ、試(こゝろみ)に池中に投(なげ)いれしに池中(ちちゆう)火を出せし事庭燎(にはび)のごとし。
■雪が消えてから再度その場所に行って見ると、火が燃えていたのはその小さな窪地の溝岸の個所でした。
火打ちで付木(ツケギ)に火をつけて試しにその溝池に投げ入れてみると、池の中に燃え移り、かがり火の様になりました。
||水上に火燃(もゆ)るは妙法寺村の火よりも奇也として駅中(えきちゆう)の人々来りてこれを視る。
■水の上で燃えるとは妙法寺村の火よりも奇妙なことだと、宿場中の人びとが来てその火を見ました。
||そのゝち銭に才(かしこき)人かの池のほとりに混屋(ふろや)をつくり、筧(かけひ)を以て水をとるがごとくして地中の水を引き湯槽(ゆぶね)の竈に燃(もや)し又燈火(ともしび)にも代る。
■そのうちに、商才に長けた人がその窪地の池の近くで風呂屋を始めました。
筧(かけい)を作ってその池の地中の水を浴槽の竈で燃やしたのです。
そして、行灯(あんどん)代わりにもなりました。
||池中の水を湯に??覃(わかし)価(あたひ)を以て浴(よく)せしむ。此湯硫黄の気ありて能(よく)疥(し)癬(の)の類を治(ぢ)し一時流行して人群をなせり。
■池の水を沸かして湯にして料金をとって客に入らせたのです。
この湯は硫黄分があるらしく、疥癬(かいせん)などによく効くので、
一時は大流行(おおはやり)で大勢の人が詰め掛けました。
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