北越雪譜初編 巻之中
越後湯沢 鈴木 牧之 編撰
江 戸 京山人百樹 刪定
○雪中の火 3/3
按(あんずる)に地中に水脈と火脈(くわみやく)とあり。地は大陰なるゆゑ水脈は九分火脈は一分なり。かるがゆゑに火脈は甚(はなはだ)稀(まれ)也。地中の火脈凝結(こりむすぶ)ところかならず気息(いき)を出(いだ)す事人の気息のごとく、肉眼には見えず。火脈の気息に人間日用の陽火(ほんのひ)を加(くはふ)ればもえて焔をなす、これを陰火(いんくわ)といひ寒火(かんくわ)といふ。寒火を引(ひく)に筧の筒の焦(こげ)ざるは、火脈の気いまだ陽火をうけて火とならざる気息ばかりなるゆゑ也。陽火をうくれば筒の口より一二寸の上に火をなす、こゝを以て火脈の気息の燃(もゆ)るを知るべし。妙法寺村の火も是也。是余が発明にあらず、古書に拠(より)て考得(かんがへえ)たる所也。
「校註 北越雪譜」野島出版より(P.45~47)
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○雪中の火 3/3
|| 按(あんずる)に地中に水脈と火脈(くわみやく)とあり。地は大陰なるゆゑ水脈は九分火脈は一分なり。かるがゆゑに火脈は甚(はなはだ)稀(まれ)也。
■このことを考察すると、地中には水脈と火脈とがあるということです。
地は大陰なので水(陰)が九割火(陽)が一割といったところ。
それなので、火脈が顕れる事は滅多にありません。
||地中の火脈凝結(こりむすぶ)ところかならず気息(いき)を出(いだ)す事人の気息のごとく、肉眼には見えず。
■地下の火脈が燻り固まっている場所は必ずその気が吐き出されているのです、ひれは人の呼気と同じように、肉眼では見えない物です。
||火脈の気息に人間日用の陽火(ほんのひ)を加(くはふ)ればもえて焔をなす、これを陰火(いんくわ)といひ寒火(かんくわ)といふ。
■火脈の呼気に、人が普通に使う火(陽火)を加えると燃え出して焔となるのです。
これを陰火(いんか)とも寒火(かんか)ともいいます。
※つまるところ、火の陰陽和合ということデスナ。
||寒火を引(ひく)に筧の筒の焦(こげ)ざるは、火脈の気いまだ陽火をうけて火とならざる気息ばかりなるゆゑ也。
■寒火を筧(かけい)で引いても筒が焦げないのは、火脈の呼気はまだ陽火と混ざらないので“火”にならないからなのです。
||陽火をうくれば筒の口より一二寸の上に火をなす、こゝを以て火脈の気息の燃(もゆ)るを知るべし。妙法寺村の火も是也。
■火脈の呼気が普通の火(陽火)に交われば、筒の口の少し上で“火”になるのです。
これをもって、火脈の呼気が燃えるものである事が知れるのです。どや!
||是余が発明にあらず、古書に拠(より)て考得(かんがへえ)たる所也。
■この説はわたし(京山)の全くの独創による説ではありません。
文献を調べてそういう結論に達したということですわ。あはは。
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